『SeaBed』はキャラクターの精神の海を泳いでいるような百合ミステリーなヴィジュアルノベル

ノベルゲーがやりたくなニンテンドーストアでゲームを漁っていた俺の心を透き通るようなタイトルイラストで一本釣りした『SeaBed』は、そのイラストからくる期待を裏切らない爽やかな世界観が心揺さぶるテーマを押し付けがましくなく染み込ませるように伝えてくれる、素敵な作品でした。

ネタバレにならないように気をつけながら感想を書きたいと思います。

 はじめに

この『SeaBed』はインディーズゲーム、プレイ後にDLsiteで販売しているのを確認したのでおそらく同人ゲーム、ということで価格は1980円(switch版2200円が5/6まで10%off)となんとお手頃なことか。反面それは開発の規模感の投影とも捉えられ、

  • 元のゲーム画面サイズがSwitchと合わないためデジタル放送テレビでアナログ時代の番組を見るときのようにフレームで余白部分を覆っているが、デフォルトのフレームの女の子のイラストが妙なまでに存在感がありヴィジュアルノベルの雰囲気に影響を与えている気がする(設定で変更出来る)
  • 背景画像に風景写真を加工したであろうものとCGで作られたものが混在していて若干だが違和を感じる
  • 多くはないが無いとも言えない誤字(しっかり数えていたわけではないが両手で数えれるか、数えれないかくらいはあったような気がする)
  • ちょっと文字が小さい(個人的にノベルゲーの原点にして頂点と仰いでいる『かまいたちの夜』と比較した場合の超個人的意見)

などと姑の如く粗を探そうと思えば幾らかは出てきます。

しかし、このゲームの持つ魅力的なキャラクター達、世界観、テーマなど、ヴィジュアルノベルとしての完成度を前にすればこんな粗など大きな海の中にある砂粒1つのようなものでしょう。

このゲームの魅力とは 

ミステリーと銘打つだけあり『好奇心・探究心を唆られる謎が物語に散りばめられている』、そして物語の肝である『キャラクターが出来事を通じて成長・変化する』、という要の2つをキッチリとおさえています。

その上でこの作品の個性的な魅力として、『謎や出来事に伴う成長・変化はあくまでも、どこまでも、主要キャラクター3人の生活の中にある、独特な世界観』があると私は考えています。

これについて己の中にあるイメージを貧相な語彙で頑張って言語化しようと思います。

あくまでも、どこまでも3人

このゲームは主要キャラクター3人が各々の視点で日常風景や回想を語ることでストーリーが進みます。

このストーリーで起きる主な謎は、『別れた恋人の幻覚を見る佐知子、記憶を失う障害を持つ貴呼、といった主要キャラクターの設定に関わるもの』や、『プレイヤーのみが観測できる3人で語られる内容の齟齬』、といったこの3人に関わるものであり、これらは他の登場人物はそのきっかけとなることはあっても、ほかのキャラの生活に大きな影響を与えることはありません。(私の解釈においては)

(これらの設定はここにかいてあるのでネタバレにはならないはず)

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つまりこのゲームのミステリーは、殺人事件の犯人を世の中、広い社会を闊歩し散らばる断片を見つけて突き止める、ようなものでなく、謎の理由や原因を個人、その精神の海に潜っていき断片を集めていく、ようなものです。フォーカスはソーシャルでなくパーソナルに当たっています。

そしてテーマとも言えるキャラクターの変化・成長、これも3人の語りの中で自然と起きていきます。

ネタバレになりかねないのであまり書きませんが、こういったテーマは個人的に登場人物が説教たらしくしたり、中二病っぽさが連発されたりと、押し付けがましくなりがちなイメージがあります。

しかしこのゲームは3人の語りによって物語が自然と解きほどかれ、キャラクターは初めから定まっていた然るべき方向へ進んでいくが如く、最終的には自ら気づき、選択し、成長していくといった印象を受けました。

生活風景や回想の語りの中で進んでいくストーリー構造が自然と解きほどくという印象に繋がっているのかもしれません。また、主要キャラが自ら内省するようなキャラクター性なのも関係していそうです(キャラクターについては後でも書きます)。

独特な世界観

このゲームは生活や回想が語られる中で(いつのまにか?)ストーリーが進んでいくことと、主要3人のキャラクター性から独特な雰囲気を醸し出しています。

頭に爽やかと書きましたが、別の感想サイトを見たところ淡白とかかれていました。たしかにそういった表現の方が近いのかもしれません。

他の方の表現も勘案し、私の貧相な語彙でこの世界観を『さっぱり』と表現したいと思います。

『さっぱり』な雰囲気を醸し出すキャラクター性

・貴呼は明るく快活で一人で突っ走ることもありますが、周囲をよく見ており、一部ではどこか達観したような考え方をしている印象を受けました。

・佐知子は物事を客観的に見て、冷静に判断することの多いキャラクターです。

・楢崎は「物事には必ず理由がある」といった風なことを信条としており、分析的なものの見方をします。

佐知子と楢崎はもちろん、貴呼も後者の側面によって全体的に、生活内容や回想の語りにおける主観の部分が『さっぱり』していたために、こういった世界観だと感じたのかもしれません。

回想は海のシーンが多く、写真を加工した風背景写真も相まって爽やかな雰囲気を感じる場面も多いです。

おわり

このゲームは物語、ミステリーの肝を押さえた上で、3人の視点で描くことやその3人のキャラクター性またキャラクター個人の心に焦点を当てたミステリーであることが、非常に個性的で魅力的な雰囲気、世界観に繋がっており、キャラクターの変化・成長におけるテーマ性も、『さっぱり』とした世界観から押し付けがましくなく自然と染み入ってきます。

個人的に好みなテーマですが、それをこういった描き方で表現できるのかと衝撃を受けました。

2週目やったら考察とか込みのネタバレ有りでもう一回記事かきたい

別に俺の利益にはならんけど、一応購入できるリンクも貼ります。買おうね

ec.nintendo.com

 

store.steampowered.com

www.dlsite.com

P.S.

①Steamでは定価が1980で現在セール中でもっと安く、DLsiteでは660円だったので貧乏人的にはちょっとショックでした…

②最近読んだ『ヘミングウェイで学ぶ英文法』に『The Sea Change』という話があって、こっちもSeaがタイトルに入っている同性愛をテーマに織り込んだ内容なのでなんとなく思い出してしまう。Seaとsheが掛かってたりしないのかなぁと思っているが、そんな解説はないのでかかっていないのだと思う。